■ 許せる人3
「コウ…はどうして?」
コウと呼んでるその男の子。
少し落ち着いてきた美幸が小さく恵理に聞いた。
「うん。お姉さんから連絡貰って。今日ここで話すってお姉さんの許可貰ったんでしょ?それで、コウを連れて行って…って。それが美咲さんの本心だと、あたしは思う」
そう言った恵理の視線はワタルを見ていて。
さっきまであった動揺はもうワタルの瞳には見えなくて。
でも…コウを引き寄せた美幸はその子をワタルの前に差し出した。
決心したように真っ直ぐワタルを見て言ったんだ。
「姉の子供です…父親は、あなたです…ワタルさん」
大きく目を広げたワタルは「嘘だろ…」震える声で呟いた。
誰も想像していなかったその真実。
ここに来て、今この瞬間に美幸が嘘をついているなんて誰も思っていなくて。
眉間にシワを寄せたままだったワタルの眉毛が微かに下がった。
「妊娠は本当だったんです。潤平さんはそれでも姉を受け入れたんです。そのぐらいの覚悟で姉を奪ったんです」
だからワタルもこの事実を受け入れて……そう続きそうな言い方だった。
二年前の夏を思い出した。
ノリの相手が哲也だと聞かされたあの日の苦しさを。
だけど、真実というものは、いつかきっとちゃんとした形で伝わるものだと、信じたい。
苦しさを乗り越えた先にあったのは幸せで。
それをワタルにも分からせてあげたい。
『美咲さんは、ちゃんとワタルを愛してた。その証がこの子……そうだよね?』
わたしが哲也を見ると「ああ」優しく答えた。
「航って書いて、コウ……それがこの子の名前です」
美幸の言葉にワタルがズズズッとその場に崩れ落ちた。
わたし達に背を向けて。
その大きな背中を小さく揺らして泣いている。
その涙こそが、ワタルが今日まで抱えてきたもの全てで、美咲への愛の形なんじゃないかって。
ほんの少しあの日のノリとワタルが重なった気がした。