■ 大きすぎた壁8


直人を病院に連れていくのに、数人がこの青倉庫からいなくなった。

広臣とユカリもついていって…。

再び静かな空間がこの青倉庫に戻ってきた。


そんな中、静かに口を開いたのは、美咲の妹の美幸だった。




「私は生まれつき重度の心臓病を患っていまして…もう助からないって言われていたんです。だからせめて普通に生きたいって。知っているのは家族だけでした。そんな時、もしかしたら治るかもしれないって話をいただいたんです。でもそれには莫大な費用がかかるし、ましてやうちにはそんな大金を払える程の余裕なんてなくて…。そんな時でした、姉の美咲が浅岡病院の一人息子でもあり、暴走族チームoneの6代目総長でもある浅岡潤平に告白されたのは。元々浅岡病院の患者だった私について来ていた姉に一目惚れだったそうです。勿論その時姉は…ワタルさんと出会って幸せな日々を過ごしていました。どうしても美咲を欲しがった潤平さんは…自分と付き合えば私の手術費用も全額負担してやるって…言ってきたんです。勿論姉の人生なのでそんなことしなくていい!って。だけど…姉は一人で決めてそれでワタルさんを傷つけるような嘘をついて、私の人生を一緒に背負うって…潤平さんの所に行ったんです」



涙ながらに話す美幸。

誰もが始めて耳にする真実は、切なすぎて苦しいくらい。

でもここにいるみんなが一緒にその傷も背負ってくれるんじゃないかって、そんな風に思えてしまうんだ。


6代目のことはあまりよく知らない。

わたし達がoneに入ったのは7代目の時で。

その前にそんなことがあったなんて誰も知らない。

苦しい真実ほど受け止められなくて、逃げてしまいたくなるもので。

だけど、逃げても何も変わらないってことも知っている。

苦しみを分割できる相手がいるわたしは、少なからず幸せだと思えた。



「今更だ…」



ポツリと呟いたワタル。

確かに今更かもしれない。

今更どうあがいた所で、事実は変えられないし、美咲が戻ってくる可能性なんて低い。

今どうなっているのか分からないけど…――――――偽りの愛が、真実の愛に変わることも…きっとある。

わたしには分からないけれど。



「誰に何を聞かれても絶対に口外しない…約束でした」



そう言った美幸は、そっと視線を奈々に移したんだ。

キョトンと奈々を見つめるわたしに、今まで何も言わずにいたタカヒロがそっと薄い唇を開いたんだ。



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