■ 大きすぎた壁7
【side ゆきみ】
「なに言ってんだ?」
馬鹿じゃねぇの?って顔でわたし達を見るワタル。
だけど、その顔はさっきよりもまた少し強く動揺していて。
きっと誰しも、出会ったことに意味があるんじゃないかって。
わたしと奈々が出逢えたことも、ワタルと出会ったことも。
どうして今まで女を寝取られたチームの奴等が、ワタルの悲しそうな思いに気づいてあげられなかったんだろう?って。
チームoneは、総長タカヒロを信頼して常にチームを守るっていう仲間意識が高い。
だから上を信じて下が動く。
大切な人を守ろうとしてみんな一致団結する。
だからだと思う。
ワタルのSOSに気づいたのは。
大切なものが何かって分かっているから、ワタルの孤独に気づけたんだって。
今時時代錯誤の暴走族が何言ってんだ!って世間は思うかもしれない。
でも、それでもわたし達は群れをつくって生きていくことしかできない。
守れる何かがあるということが、人を強くさせるんだって…。
『寂しかったんでしょ?一人ぼっちだったんでしょう?苦しかったんでしょう?』
わたしの言葉に目を大きく見開いて「ふざけんなよっ!!」大声で叫んだんだ。
でもこんなワタル、怖くもなんともなくて。
この繋がっている手がなくなることの方がわたしにはよっぽど怖い。
一歩わたし達から離れるワタルに一歩近づくわたしと奈々。
『怖がらないで。助けてあげる…。ワタルは一人じゃない。誰もワタルを孤独にさせない。約束するよ』
「やめろ、バカ!!」
『やめない!わたしと哲也の愛も証明して、ワタルも助ける!それがチームoneだよっ!!』
わたしがそう叫んだ瞬間、ドサっと音がして、直人が地面をゴロリと転がった。
『ゆきみさん、もう止めさせてください!!直人くん死んじゃうっ!!』
どっから来たのか、わたしの腕に捕まって膝まづいて泣き喚く女。
この子、広臣の女。
わたしと外見も名前もよく似ているこの子はユカリで。
ユカリを止めるように広臣が後ろからユカリの腕を引き寄せている。
「ユカリよせって!」
『でも直人くんが死んじゃうっ!!こんなの見てらんないっ!!』
視線を直人に向けると、息はまだしていて。
そんな直人に近づく哲也。
馬乗りしてまた顔をドカっと殴った。
ブホって直人の口から血が噴き出して…
その瞬間、奈々が哲也と直人の所まで飛び出して行った。
再び振り上がった哲也の腕をギュっと掴んで奈々が直人に言い放った。
『直人、ゆきみの笑顔をあたしに返して…お願い…』
祈るように哲也の血まみれの腕を押さえてそう言う奈々に、涙がブワっと溢れた。
動くこともできない直人は、真っ赤な口を開けて、小さな声で言ったんだ。
「奈々さ…に言われちゃ…仕方ねぇ…」
そう言ってスッと目を閉じた。
『直人くんっ!!直人くんっ!!』
ユカリの泣き喚く声と、それを身体全部使って後ろから抑える広臣。
静かな青倉庫にユカリの鳴き声だけがしばらくの間響き渡っていたんだ。