■ 大きすぎた壁6


『それが真実だって証拠がない限り、哲也くんはゆきみを裏切ったりしないよ。あたしはそんなくだらない噂は信じない。ゆきみも信じない!』

「お前、気強ええな。それがタカヒロを落とした理由かよ?そういや前の女ノリも気だけは強かったよな…。似てんな奈々とノリ!」



…ムカツク。

嫌味っぽくそう言うワタルに心底腹がたった。

昔の話をされて、あたしとタカヒロが超えてきた壁をグラグラと揺らそうとしている気がした。

悔しくないなんて言ったら嘘になる。

ノリと比べられることがあたしにとってどれだけのことかワタルは分かっていない。



『どこも似てないよ!奈々は奈々で、ノリはノリだ!わたしの親友も、タカヒロの女もノリじゃなくて奈々一人だけだよ!!』



ゆきみがキっとワタルを睨みつけている。

だから分かったんだ。

ワタルが一人で抱えられなかったその壁の大きさを。

こうやって人のあら捜しばかりをして楽しんでいるその歪んだ性格は、一人じゃ大きすぎた壁のせいだと。


あたしとゆきみが一緒にいる意味も。

あたしにはゆきみがいる。

ゆきみにはあたしがいる。

だからワタルが一人じゃ抱えらなかったであろう大きな壁も、あたしとゆきみにはさほど大きくはないんだって。


ワタルの気持ちを理解して、どんな真実であろうと一緒に立ち向かっていける相手がワタルの周りには誰一人いなかったんだってことが、今ようやく分かった。

喧嘩じゃワタルはかなり強いのかもしれない。

だからその腕だけにみんながついてきているのかもしれない。

でも、本当の本当は、ずっと孤独だったんじゃないかって。

年少から出たワタルが最終的にうちのチームoneに狙いをつけたのは、あたし達だったら自分を助けてくれるんじゃないかって…そう思ったからであろう…と。


それに気づいたのはあたしだけじゃなく、隣にいるゆきみもそうで。

二人で顔を見合わせたあたし達は微かに微笑みあった。



「美しい友情だな、お前ら」



呆れた声を出したけれど、ワタルの本心はきっとそんなこと思っていないんだって。



『ワタル…うちのチームに入りなよ』



そんなゆきみの声が届いたんだ。



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