■ 一番大事なもん6


【side 奈々】



『あとどのくらい?』



走り始めてから30分が過ぎた。

一行に終わりそうもないこの暴走。

一体ケンチと直人はどこまで行っちゃったの?



「…焦るなって」



ポンってタカヒロに頭を叩かれた。

そのまま肩に回された手がゆっくりとあたしの腕を撫ぜて。

ほんの少し落ち着きを放ったんだ。



『タカヒロ…』

「大丈夫だって。哲也はヘマしねぇ」

『うん』



ふう〜…息を吐き出した瞬間、タカヒロの携帯が音を奏でた。

途端に鋭いoneの八代目の顔に変わって…



「俺だ…ああ…――――…分かった」



パチンっと携帯を畳み込んであたしに視線を向けた。



「哲也から。連れてきたって」



待ち望んでいたその言葉に、胸が熱くなった。

まだこれからなのに、何だかとっても嬉しくて。



「奈々、お前の粘り勝ちだぞ」

『え…?』

「お前のせいだって、言ってるみてぇ…」

『…あ、たしの…?』

「ああ」

『あたし、役に立てたってこと?』

「ああ、そうだ」

『ほんと?』

「そうだって!」

『嬉しい…』



ポロっと涙が零れた。

誰かの…ゆきみの役に立てたってことが、こんなにも嬉しいんだって。

あたしなんかの力じゃどうにもできないって思ったりもしたけど、それでも諦めずに頑張った。



「馬鹿、泣くの早ええよ」



タカヒロの言葉に涙を堪えながらあたしは微笑んだんだ。


ゆきみ、待っていてね…



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