■ 一番大事なもん3
しばらくするとVIPから出てきたのはタカヒロで。
それを合図に暴走が始まろうとする…―――
わたしはキョロキョロと辺りを見回すも…
「久しぶり、ゆきみちゃん。元気だった?」
奈々の隣からタカヒロがそう声をかけてくれた。
この人は、いい意味で変わらないんだって、ちょっと嬉しくて。
『タカヒロ…ありがとう』
「なにが?」
『色々…』
「ゆきみちゃん、この走りが終わったら大事な話があるから…帰らないでここに残って」
『…話?』
「ああ…。哲也もそれまでには来るから…」
哲也の名前を出されてドキっとした。
タカヒロの護衛のように前を歩く哲也がいないから、わたしは不思議に思っていて。
でも内心哲也がいなくてホッとしたりもしていて。
『あの…哲也は?』
こんなことわたしが聞いていいのか分からなかったけど、今哲也がここにいない理由を知りたくて仕方がなかった。
逢えないと分かると、余計に逢いたくなるもので…――――――
一瞬視線を泳がせたウソのつけないタカヒロは、すぐにフワリと優しく笑って「一番大事なもん、取り返しに行ってる」…。
タカヒロの言葉に合せるように、隣の奈々も微笑んだんだ。
だからか、胸がギュっと痛くて。
どうしてそんな優しい顔で言うの?
「一番大事なもん」なんて…浮かぶのは一つしかなくて。
哲也にとって「一番大事なもん」なんて…―――――「ゆきみちゃん!?」聞こえた声に振り向くと、そこにはケンチがいて。
「来てくれたんだ、ゆきみちゃん!」
笑顔でわたしに駆け寄ってきたケンチは、人目も気にせずギュっとわたしを抱きしめたんだ。
普段そんなことをするようなタイプじゃないケンチだから、『えっ、ケ、ケンチっ!?』吃驚してしまうわけで。
「ケンチさんっ!!」
わたしの後ろで直人が素っ頓狂な声を出したのが聞こえた。
でも、ケンチがわたしを抱きしめたことにすら意味があって。
「哲也さんは大丈夫だから」
『…ケンチ…』
「今夜で終わりにしよう、その強がりなゆきみちゃん」
ポンポンって背中に回された腕を緩めて頭を軽く叩くと、ケンチはわたしから離れた。
ニコってくったくなく笑う太陽みたいなケンチの笑顔。
ケンチの言った、哲也は大丈夫。って言葉に、そのなかにどんな意味が入っているのか?分からないけど、何だか泣きそうなったんだ。