■ 一番大事なもん2


その日の夜、久しぶりに青倉庫に行った。

今日はケンチの退院祝いの暴走で。

哲也と別れてから一度も顔を出していなかったわたしは、忘れていたことを思い出さざるを得なかったんだ。



「ゆきみさんだ…」



そう声はするものの、誰もわたしに話しかけてくる子はいなくて。



『…そっか、そういうことか』



奈々がノリからタカヒロを奪い取った…って噂が流れていた時、こんな空気だったかも。

この子達、何も成長してないのか…なんてほんの少し他人行儀に思っているなんて。


哲也から離れたわたしは、それによってoneからも少し離れてしまったんだろうか。

でも、誰に分かって貰わなくてもいい。

わたしが信じている人にだけ分かって貰えてれば、いいんだ。



『ゆきみっ!』



ほらね。

振り返ったわたしに向かって走ってくるのは当たり前に奈々で。

ここ数日学校にも来ていないかった奈々を見るのはほんの少し久しぶりだった。



『奈々!』



ニッコリ笑うわたしに向かって『来てくれてよかった』嬉しそうな笑顔をくれる奈々。

もうすっかりoneの女である奈々は、ここら一体にしっかりと顔と名前が知れ渡っていた。



『ゆきみ…』

『うん?』

『大丈夫?』

『え?』



キョトンと答えるわたしに、くるりと辺りを見回して『空気悪いよね、ここ』そう言うんだ。

それで奈々が心配してくれているんだって分かったけど。



『大丈夫だよ、わたし。別にどうってことない!』



そう言うと、あははって奈々が笑った。

それからこう続けて。



『ゆきみはやっぱり強いね。逃げたあたしとは大違いだ」



それは、あの夏のことを言っているんであろうけど。



『違うよ、奈々。奈々が分かってくれてれば、他はどうでもいいってこと』



わたしの言葉に奈々はまた嬉しそうに微笑んだんだ。


やっぱり奈々はいつでもわたしを信じて分かってくれている。

物事は言葉に出さないと伝わらないことだらけのなか、奈々だけは何も言わなくても分かってくれる。

わたしのちょっとした態度や視線に、絶対に気づいてくれる。

だからわたしは、ここにいられるんだって、そう思えた。



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