■ 親友7


『どうして分かるの?』



また来るね!…そう言ってケンチの病室を出たあたしは、久しぶりにタカヒロと二人きりの時間を過ごしていて。



「見てるから」


まさかそんな答えが返ってくると思わなくてドギマギしてしまう。

そんなあたしを見て面白そうに口端に笑みを浮かべるタカヒロ。

肩に回された手がサラリとあたしの髪をすくってそこに小さく口づけた。


ここ、青倉庫にはゆきみと直人とケンチがいないってだけで、それ以外は何ら変わりはなかった。

でも、ゆきみと直人がいないだけで、バイクのエンジン音や話し声はするものの、何となく空気が静かに感じている。

チームのみんなはゆきみが哲也くんと別れて直人と付き合っていることすら知っていて。

世間一般にもその噂は流されていた。

前に、ノリとタカヒロがまだ付き合っていた頃、あたしがタカヒロに色目を使っているって噂がたって。

親父に殴られた傷が癒えたあたしを出迎えたチームの空気はとてつもなく悪かった。

今、あの頃と同じ空気が流れている…

でも、ゆきみ達がこうなっている理由なんてチームの子達は知らないから。

ゆきみが戻ってきた時にこの空気を浴びせるわけにはいかない。

あんな空気、あたしだけで十分だ。

こんな空気になっても、それを受け入れている哲也くんであり直人は、その身体全部でゆきみを守っているんだって、あたしは分かっている。


『タカヒロみたいに、強くなりたいな、あたし』


恥ずかしさを誤魔化すために話題を変えたあたしにフッて笑ったタカヒロは、グイっとあたしを抱き寄せた。


「これ以上強くなられたらオレが守る意味もなくなんぞ!」


そうやって冗談にしてしまうタカヒロ。

ニコって笑い合って、ゆっくりとタカヒロがあたしに近づいた…――――


安心して目を閉じてタカヒロの温もりを待つあたしに、コンコンっとVIPのドアがノックされた。

チッて舌うちと同時、ズカズカと大股で歩いてドアに向かうタカヒロに、密かに笑いがこみ上げたんだ。

勢いよくドアを開けたら、そこには久しぶりに見る哲也くん…―――――――と、知らない女が立っていた。


「奈々ちゃん久しぶり」


そう言ってあたしに微笑んだ哲也くんは、ゆきみと一緒で少し痩せていた。

哲也くんに聞きたいことが沢山あるのに、その顔を見たら何も言えなくて…

静かにあたし達の前のソファーに座ったんだ。

いつもゆきみを座らせていたその場所に、知らない女を座らせて…―――――――



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