■ 親友2


それはあの日、ゆきみがあたしの身代わりにワタルに拉致られたあの日。

ワタルがトップの女だけを狙うことに違和感を覚えて…



『ワタルの過去に何があったかそれを直人に調べて貰ってるんだけど、なかなか見つからなくて…』

『…ゆきみと哲也くんが別れることなかったのに…』

『信じてないって思ったの、ワタルが。普通に考えてトップの女に裏切られたんだって…だからワタルは女を信じないっていうか…。だからわたしと哲也も簡単に崩れるって思ってると思うの…』



ゆきみは自分を犠牲にして、それでも尚、哲也くんを信じているんだって。

直人と付き合うことはなかったんじゃないかって思うけど、直人と付き合うことで、哲也くんとの別れをより一層リアルにしているんだって。

だからそんな風に笑顔の裏が切ないんだって。

それを一人で実行させてしまったことが悔しくて。

いつだってあたしを守ってくれるのはゆきみであり、タカヒロであり、oneのみんなで。

守られてるだけの自分が物凄く惨めに思えた。



『あたしのせいで…』



ポロっと出てしまった言葉にゆきみは首を横に振って優しくあたしを見つめる。



『誰のせいでもない。奈々があたしの立場でもきっと同じことをしているはず。もうこんなこと辞めたいの。もう誰も苦しめたくないって思うけど…』



そこまで言うとゆきみは言葉を止めて。

苦しそうな表情で小さく口を開いた。



『哲也を信じているけど怖い…』

『ゆきみ…』

『わたし…直人のことまで傷つけてる…』

『やだゆきみ、泣かないで』

『もう、どうしたらいいか分かんないよ…。哲也に逢いたい…哲也に、逢いたいよぉ…』



堪えきれなくなった涙が、ゆきみの気持ちと一緒に零れだして、あたしの心にまで染み込んでくる。

こんなにもゆきみを苦しめてるワタルを絶対に許さない!

あたしの気持ちなんてどうなったっていい。

こうするしか方法がなかったって、自分を責めているゆきみを、ギュっと抱きしめた。

もしも、ケンチがあんなことになっていなかったら…別れていたのはあたしとタカヒロだったかもしれない…。

本気でそう思う。

これ以上誰にも迷惑をかけたくないから。

でもきっと…そんなことすらタカヒロは許してくれないと思うんだ。

そう思うあたしごと、タカヒロは守ってくれるんだって。

同じように、そうするしかなかったゆきみを、きっと哲也くんは今、受け止めているんだと。

ゆきみの気持ちを無駄にしないように。

哲也くんがどれほどゆきみを好きか…ゆきみを愛しているのかなんて、oneのみんなは分かりきっている。


きっと、直人も分かっているね。

それでもゆきみを好きだから。

例えその気持ちが本物じゃないと分かっていても、ゆきみを受け止めるのが、直人だもん。

みんなが、みんなを守ろうとしているんだって。



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