■ 悲しい嘘5


「あ、悪い…寝てた」



眠そうに目を擦っている哲也。

その仕草が可愛いくてわたしは笑った。


でも次の瞬間哲也の腕が伸びてきて、わたしの手首を掴むと、そのまま自分の胸に引き寄せた。


仰向けで寝そべる哲也の上に、わたしが被さっている状態。


ちょうど胸元にあるわたしの顔、哲也の心音が心地良く伝わってくる。


トクン…トクン……て、ちょっと早めのペースで音を立てている。



「ゆきみ」


『うん?』


「悪かった、一人にして」


『哲也のせいじゃない』


「いや、俺の責任。ワタルの狙いがお前だなんて気づかなかった…ワタルに、何かされたか?」


『わたしには何もしてこなかったから』


「そうか、よかった」



ホッとわたしを強く抱きしめた。


ケンチがこんな時にって分かってる。


こんなことしてる場合じゃないって…


でも、今のわたしと哲也はただそうしたい…って気持ちだけ。


そう思うから…


わたしを強く抱きしめる哲也を上から覗き込んだ。



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