■ 想い9


しばらくしていっそう大きな声が飛び交う。



「お前らさっさと女連れてけっ」



直人が怒鳴り散らした声がして、バンが建物の敷地内に次々と入って行く。


一体何人があたしの身代わりになっていたの?


あの姿を見ると足がすくむ。



「ゆきみさんっ!!」



聞こえた直人の声に顔を上げると、哲也くんにガッチリ抱きすくめられているゆきみが目に入った。


それだけであたしはホッとして。


よかった、ゆきみが無事で…


溢れる涙をグッと堪えたんだ。



『奈々は?奈々はどこにいる?』


「倉庫だけど」


『誰か奈々に着いてるの?』



ゆきみの問い掛けに哲也くんは勿論、直人は苦笑いを返す。



『あの日ワタルの狙いは最初からわたしだったの!奈々って思わせてわたしだったの!わたし達完全に裏をかかれたんだよっ! わたしの居場所が分かったことで奈々を一人にしてないよねっ!?』


「直人すぐ戻れっ」



今更感満載な哲也くんの言葉にバイクに跨がる直人。


あたしは見つからないように身を縮めた。


ババババ…騒音があたしの後ろを過ぎて行った。


こうやって、自分がどんなに危険に曝されていたとしても、あたしのこと心配してくれるゆきみの気持ちが嬉しくて。


自分がゆきみの立場なら同じことを思い、同じことをしたんじゃないかとさえ思えた。


あたし達が培ってきた時間はそれほど大きなもんじゃないけど、


そこにある¨想い¨は、何にも負けないもんがあるって、あたしは思うんだ。


だから強くなれる。


もう誰かに守られているだけなんて嫌。


あたしは負けない―――


寂しさや孤独…


ワタルにも、自分自身にも…




「何度言っても同じだ!奈々は出さねぇー!」



遠くで聞こえた、まるで映画みたいなタカヒロのその言葉に、あたしは胸が痛かった――――




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