■ 着信8
「奈々どうした? お前また苦しいのか?」
息がうまく吸えないあたしを見たタカヒロは、VIP部屋にある机の引き出しから紙袋を取り出すとすぐに開いて、それであたしの口元を覆った。
「ゆっくり吸え…」
『ゆきみ…は』
「大丈夫だから」
そう言うタカヒロにあたしは首を振ると再び言葉を吐き出す。
『ちゃ…と……しえて…』
「分かった、教える。今は息吸え」
目の前のタカヒロは、泣いてしまいそうなくらい目を潤ませていた。
もう、さっきまでの怖さはない。
あたしは腕を伸ばしてタカヒロの頬に触れた。
『泣き、そう…』
そう呟いたあたしの腕をギュッと握りしめると、タカヒロはソファーの上であたしを少し強引に抱きしめた。
そんなあたし達の後ろ、あたしの携帯を持ったまま、静かにケンチがVIP部屋を出て行った。