■ 着信5
『うん、よろしく』
そう返すあたしに、満足気な笑顔を見せるタカヒロ。
でもその顔はどこか疲れているようでもあって。
『タカヒロ…ゆきみどこにいるの?』
そう聞いたら、物凄い形相でタカヒロがケンチを睨みつけた。
ビクッとケンチの肩が小さく揺れた。
こーゆうタカヒロの雰囲気は正直苦手で。
勿論このタカヒロも含めてあたしはタカヒロを好きなんだけれど…
あたしの前では優しいタカヒロだから、まるで別人のように見えてしまう。
金色のサラサラな前髪の下にある大きな瞳が、これでもかってくらいにケンチを睨んでいて。
取り出した煙草を口に加えて火をつけた。
あたしの隣、二人掛けのソファーにドカッと大股開いて座るタカヒロ。
「ゆきみちゃんはおたふくだ。家にいるんじゃねぇーか」
背もたれに腕を伸ばしてあたしのセミロングの髪をすくって遊ぶタカヒロ。
今までタカヒロがあたしに教えてくれなかったことはなくて…
あたしが不安にならないように?
あたしの質問にはちゃんと応えてくれていたタカヒロ。
それが今回ばかりは通じないようで。
そんなタカヒロに対して引き下がれないのは、相手がゆきみだから。
ゆきみじゃなかったら、こんな気になってないと思う。
でも今あたしがここにいるって全ての理由には、ゆきみの存在がある。
ゆきみとあの日出会わなければ、今のあたしはいない。
―――この場にあたしはいない。