■ 秘めた独占欲5
「…喋らねぇんだあいつ」
それは始めて聞いた事で。
悠長に暴走待ちをしていた自分を呪いたい。
今すぐゆきみに逢いたい!
あたしは哲也くんの横を擦り抜けてVIPへ続くバーのドアを開けた。
そこにはちょっと吃驚した顔のタカヒロがいて。
あたしを見て優しく微笑んだ。
「奈々、どうした?」
『タカヒロ、あたしゆきみに逢いたい。今すぐゆきみに逢いたい…行きたい、ゆきみの所に…』
タカヒロの腕を掴んで揺らすあたしに、哲也くんの腕が伸びてくる。
「奈々ちゃん、俺が…」
そう呟いた哲也くんにあたしは首を振って否定する。
『哲也くんが連れて来れないからあたしが行くんだよ』
そう言った言葉は少し震えていて。
あたしが哲也くんを傷つけることはないんだろうけど、酷く傷ついた顔を見せる哲也くんに胸が痛んだ。