■ 闇の扉8
酷いと思った。
わたしを拒否する哲也を、心底酷いと思った。
そんな低い声出す必要なんてないのに。
そう言ったらわたしが黙って何も言えないって、分かってそうする哲也を酷いと思った。
これじゃあわたしは何の為に哲也の側にいるのか分からない。
分からないってより…―――哲也の側にいる意味がない。
気持ちが崩れるのは簡単だった。
あんなにも哲也に執着していたのがまるで嘘のよう。
サー…って小さな音が心の片隅で聞こえた気がする。
その音に合わせるように、わたしの中の何かが崩れ落ちていく…
『分かった。もう十分分かった』
路地裏に響くわたしの低い声に、哲也は振り返って。
「………」
何も言わない哲也に腹がたつ。
直人だったら分かるのに!
わたしの気持ち、言わなくたって直人なら全部分かるのに!
『ゆきみ?』
心配そうにわたしを見る奈々がいて、嬉しかった。