■ 心奪10
『何言ってんの?』って奈々の顔が言っていて。
チラッと直人を見たら、直人もちょっとだけ困ったような笑みを浮かべている。
わたしは否定も肯定もしないで、やっぱりケンチに視線を戻した。
「どうしたの?」って、返ってくると思ったケンチの返事は、たった一言「そうだよ」って。
こーいう所がケンチはカッコイイんだと思う。
何にも動じないケンチは、一途に奈々を想っている。
直人も一途にわたしを想っている。
奈々は、ケンチをどう想ってるんだろう。
『ゆきみ、さっきちょっと恥ずかしかったよ…哲也くんと何かあった?』
TSUTAYAに入るなり、奈々がわたしに小さく聞いてきた。
でも奈々は怒ってる風って訳じゃなくて。
わたしの不安定な気持ちを心配してくれているんだって。