■ 心奪9
「直人、頼んだぞ」
奈々を連れてきたケンチが、車の前にいた直人にそう言った。
わたしと直人みたいに、奈々とケンチの間にも、何かあるんだろうか。
奈々に限ってタカヒロ以外を好きになるなんて事はないんだろうけど、
―――ケンチは特別な気がする。
「ゆきみちゃん?」
ジィッとケンチを見つめていたせいか、不思議そうに首を傾げてわたしを見つめ返すケンチ。
学校でもチームでも、ケンチの人気は半端ない。
哲也やタカヒロと違って、基本誰とでも話すケンチは、正義感があって人に優しくて…
こうやって話してる今も、チームの下っ端の女の子達は、ケンチを見ている。
ケンチや直人までもをはべらすわたしや奈々を、本当はよく思っていないかもしれない。
タカヒロと哲也をはべらせていたノリを、わたしが嫌だと思っていたように。
でもそれは、わたしが哲也を好きだからであって。
『ケンチの気持ちって…』
「え?」
『ケンチは奈々が好きなんだよね?』
『ちょっ、ゆきみっ?!』
わたしの発言に隣の奈々が顔を変形させるぐらいにビックリする。