■ 心奪6


「ゆきみさんっ?」



直人がわたしの腕を掴んで前に回る。


どうしたらいいんだろう?って感じにわたしを心配そうに見つめていて。



「どこ行くの? 俺も一緒に行くよ」



背中に手を回して車まで誘導するように隣を歩く直人にわたしは視線を合わせない。



「あの、俺何かしましたか?」



言葉遣いが敬語になった直人にわたしは又悲しくなる。


ずっと敬語だった直人が嫌で、無理矢理タメ語にしたものの、こうやって不安を隠しきれない時は、決まって敬語に戻る直人。



『煙草なんて女の子に教えちゃダメだよ』


「………」


『わたしが一番じゃないの?』



分かってる。


馬鹿な事言ってるって。


哲也を愛しているわたしに、直人を縛る権利も資格もあったもんじゃないって。


こんなこと言っても、そこに哲也が居ればわたしは哲也しか見ないし、哲也の事しか考えない。


だから今のは完全な失言だって。


頭では十分理解しているのに、わざわざ口にするわたしは自分でも何がしたいか分からない。



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