買い物1 サクラさんの指導は、お店が始まる前のことで、開店時間をむかえる頃には、私は迎えにきたオーナーの高級車で別の場所に連れて行かれる。 「どちらに行かれるんですか、オーナー」 「…お前今仕事中じゃないよね。オーナーって呼ばなくていいよ。普通にアキラでいいよ」 「…アキラ?」 そう言った私に、ブッてアキラが笑って私の髪をクシャっと撫でた。 でも言ってからしまったと思ったのは、カレがそういう風に笑ったからで… 「すいません、アキラさん!」 そう言いなおした私に、更に爆笑するアキラ…さん。 「いや、まぁ呼び捨てにされるとは思ってなかったけど、ユヅキはそれでいいや。お前は特別いいよ、そう呼んどけ!」 …ユヅキって、私の本名。 アキラも、私をプライベートではそう呼んでくれるってことか。 そんなことが、少しだけ嬉しかった。 アキラの言う“特別”って言葉が、少しだけ嬉しかったんだ。 「敬語もいらないよ、今は」 「…はい」 「いらないって」 「ああ、えっと…うん」 「うん」 目を細めて笑うアキラが連れてきたのは、都内の大手デパート。 その中にある沢山のブランドショップに私を連れて入った。 そこにあったのは色とりどりの綺麗なドレス。 「出勤祝いに買ってあげる。好きなの選んでいいよ」 「…うん」 選んでいいって言ったくせに、アキラはあれもこれもって、どんどん店員さんに渡していって、私はさっきからずっと試着室の中。 アキラの選んだドレスを着ては、脱いで…の繰り返し。 基本的に紫色のドレスを多く手にするアキラは、この色が好きなのかもしれない。 「いいね、それ」 満足気に私を見て微笑むと、物凄い数のドレスを全部買ってくれた。 |