全てを忘れる愛してる1 「ただいま…」 カタンと鞄を玄関に置いたまま私はシャワーを浴びた。 アキラはもう寝室にいるようで出てこない。 できればこのまま眠っていて欲しいなんて。 「ユヅキ?」 寝室に入らずリビングにある大きな革の黒いソファーに膝を抱えて座っていた私を、アキラの温もりが後ろから重なった。 健ちゃんに言われたからじゃないけど… 「急用って…なに?」 こんな風に聞かれたらもしかしたら怒るかもしれない。 オレに干渉するな!って。 一々お前に言わなきゃいけなねぇの?って。 そういうのウザったいとか、煩わしいとか、思われるかもしれないって…。 でも…――――「レイラさんと会ってるの?」一度言ってしまった言葉は取り消せないことも…―――― 「ああ」 「えっ?!」 思いの外すぐに答えが返ってきて、その上ちっとも焦ったりしていないアキラに聞いた私が驚いて変な声を出していた。 後ろから私を抱きしめているアキラが今、どんな顔をしているのかが分からないから…何を考えているのかも分からない。 分からないから不安になる。 「アキラ…」 「なんだよ?」 「なにって…レイラさんってその…元カノでしょ?」 「そうだけど」 「…会ってるの?」 「ああ」 「…なっ、なんでっ?」 ちょっとだけムキになって聞いた私に、何だか後ろから笑われて…。 全く持って意味が分からない!! 振り返った私を待っていたかのよう、ちょっと強引に唇を塞がれて…―――アキラの甘くて艶っぽい舌が入り込んだ。 身体が忘れていないアキラとの感覚に胸がトクンと跳ね上がったんだ。 そのままソファーに押し倒されて…「待って、ベッドがいい!!」慌ててそう言った私を、筋肉のついたその腕で軽々と抱き上げた。 頭の上の間接照明をカチっとつけようとして、その手を止める。 「お願い、このままシテ…」 「いやお前…オレ何も見えねぇ…」 「お願いだからこのままで…。まだ恥ずかしいのっ…だからこのままで…。覚えてるでしょう、私の身体…」 「まぁ、分かってっけど…仕方ねぇな…。二回目はつけっからな?」 「ん…」 感覚でアキラの首に腕を回してギュっと抱きついた。 暗闇の中、目が慣れる前にアキラの上に乗っかってその首に小さな紅い花を咲かせた。 応えるようにアキラも私の首に何個か紅い花を落とす。 健ちゃんの痕が消えた。 |