甘い言葉1 「来たことないの?」 「うん、ない」 「うっそ、ほんとに何も知らないんだね、アイラさん」 「ユヅキでいいよ。今仕事中じゃないし」 「あーそっか、じゃ俺のこともナオトでいいよ、ユヅキ」 グイってナオトの腕が肩に回されて、行きつけだっていうクラブに連れて行かれた。 地下の入口から中に入ると真ん中でミラーボウルがクルクル回っていて、奥にあるカウンターに行くまでに何人もの人に声をかけられていたナオト。 「有名人なんだね」 「まぁこの業界にいるとそうなる…つーか、俺よりもみんなユヅキに興味があるんじゃない?」 ナオトに言われてドキリとする。 確かに視線を感じてはいたけどまさかそんなことは思ってもみなくて。 「マスターいつもの…と、ユヅキには軽めの甘いのちょうだい」 「…私の好み分かってる?」 「だいたいね。リュウジに聞いた。ユヅキは甘いのが好きって。柑橘系とかね」 「うん」 思わぬバーテンリュウジくんの名前にほんの少し頬が緩んだ。 やっぱり今のお店には私が必要とするスタッフがいて、その環境でこれからもいたいって再確認。 アキラと離れるのは嫌だけどやっぱり二号店には行きたくないよ。 「はい、どうぞ」 すぐにマスターからカクテルが出されて、私のグラスでチンと音を鳴らしてナオトがお酒をグビっと飲んだ。 「今日の客、どうしたの?」 みんなが聞きたかったことなんだろうな…って思うその質問。 ケイジもアキラも、テツヤさんのことだって分かっていたみたいだけど、その真相までは分からないんだろうって。 「吃驚したよ、あんな花もだけど、角界の大御所みたいな人までいたじゃん…。まさかテツヤさんの枕やってるの?」 「やっぱりそう思うんだナオトも」 「そりゃね―!テツヤさん等がユヅキに目かけてるのは分かってたけど、あんなのはさすがにレイラさんでもなかっ……あ…いや…」 知ってるんだねナオトもレイラさんもを… アキラがたった一人愛したその人を。 私の顔を見て「ごめん」って謝るナオト。 別にナオトが悪いことなんて何もないのに、一体私はどんな顔をしているというの? そんなにアキラへの気持ちが顔に出てしまっているんだろうか? 「気にしてない。でも…教えて欲しい…」 「それは…できないよ」 困ったように目を逸らして俯かれてしまった。 |