平行線1 新店開店まで二か月。 オーナーのアキラは半端なく忙しくて私達のマンションに帰ってこなくなった。 テツヤさんの枕をやることを誰にも言えるわけもなく、私は今日もテツヤさんと同伴出勤した。 ISLANDに入ると、まだ開店時間の30分もたっていない平日だというのに中の50台はあるテーブルの9割が既に埋まっている。 ボーイさん達が忙しそうにフロアを駆け巡っていて、指名待ちのキャスト達もほとんどがヘルプでテーブルについていた。 「なにごと?」 テツヤさんと別れて、スタッフルームで健ちゃんに髪を直して貰いながらそう問いかけた。 素早く手を動かしながらも健ちゃんはニッコリと柔らかい笑みを私に飛ばしてくれる。 「リンさんの客だって。ナンバー1戦いの先手うちってやつ?さすがはナンバー1って貫禄だねぇ、あの子。これが二か月続くとは思わないけど、売上げあげるのは指名取るしかないし!って…。明日になったらスズさんの客もくるかもしれないね。ボーイもバーテンも大忙しって、ナオトもリュウジもボヤイてた」 クスってそう笑う健ちゃんは、いとも簡単に私のヘアーにボリュームを出して、最後にラメ入りスプレーをかけてくれた。 いつ見ても完璧な仕上がりに私は鏡を見ながらも、惚れ惚れしてしまう。 …勿論、このヘアースタイルに。 「うん、超可愛いい!僕の手で綺麗くなってくれるの、めっちゃ嬉しいーほんと」 「健ちゃん、恋人いないの?」 突然の私の質問に、健ちゃんははぐらかすように「さぁね」って笑う。 「あ、はぐらかした!健ちゃん誰にでも優しいから、彼女だったら幸せだなぁ…って思ったのに」 「え、ほんと?アイラちゃん僕の彼女になる?」 まるで冗談くさった健ちゃんの言葉に「なるなるー」って冗談で答える私に、「わ、はぐらかされたし…」しょんぼりする健ちゃん。 それが何かすごく可愛くて、フロアはアップアップなのに、この空間だけはいつも癒されて、私はやっぱり二号店には行きたくないと思うんだ。 ナンバー2以降の配分がどうなるのかは分からないから、ここに確実に残りたいのならば、ナンバー1を取るしかないんだと、あの日私の脳内に植え付けられた。 だから私はナンバー1を取りにいくしかないんだと。 |