愛してるって言って | ナノ





噂4




それなのにお店のことは何も話してもくれない。

…―――悔しいんだ私。


「サクラは知ってんのに?って?」

「………」

「早くナンバー1になってオレに送りやらせてよね」


アキラは楽しそうな笑いを顔に浮かべると、私の腕を離してミーティングルームへと入って行ってしまった。

早鐘のように心臓がバクバク鳴っていて…危うく倒れそうなくらい。

もう毎回こんな風になりたくないのにアキラが相手だと何もできないしきっと私一生勝てない気がする。


「もうっ悔しい!」


ジタバタと足を慣らす私にスッタフルームの中から嬉しそうなアキラの笑い声が聞こえた。


「絶対ナンバー1になって膝まづかせてやるんだから」

「膝はつかねぇだろ」


ドキっとして振り返ると私のすぐ後ろに黒木店長。

煙草を咥えたまま呆れた顔で私を見ている。


「ちょっとその煙草吸わせて」


もう腹の虫がおさまらない私はケイジの薄い口から白い煙草を抜き取った。


「おまっ!」


なにすんだっ!ってケイジの言葉は私のむせ返る咳に消えていって…。

ゲホゲホむせる私の背中をさすってくれる優しい手はケイジのもので。


「むちゃだろ。せめてもっとタール低いんだったらいいけど…」

「まっずい何これ!」

「当たり前だ。女が吸う煙草じゃねぇよ、これ」

「…悔しい」

「はは、そう荒れんなって」


私を宥めることなんてお手の物って感じ、慣れた手つきで頭を撫でるケイジは「アホだ」って笑っている。

何がそんなに楽しいのよ!

って思うも口内が気持ち悪くて涙目になってしまう。


「消毒してやろうか?その口」


目を大きく開く私を見てギャハハハハって大笑いするケイジ。

からかったな、チキショー。

アキラもケイジも遊びすぎ!

ここにテツヤさんがいたらもっと変に弄られたんだろうなって思うと、せめてテツヤさんがいなくてよかったと思わずにはいられない。

でもそんなテツヤさんも二人っきりの時は妙に優しくて、その優しさが私は好きだった。

こうやって、気づいたら、当たり前じゃないことがどんどん当たり前になっていくんだって…

涙目でケイジを見つめ上げる私の顎にそっと触れる細くて白い綺麗な指に思わず見とれていたなんて…―――


「ケイジ、止めろ」


聞こえたアキラの声にケイジがゆっくりと私から離れていった。




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