愛してるって言って | ナノ





噂3




日々、試行錯誤しているみたいで、私たちキャストはそれを食べさせられることが多い。


「またすごいね、特盛りだなぁ…」

「いやアイラさんなら軽くいけるだろ?って思ったんだ。みんなオープン前だし食べてくれない…」


そう言って泣きそうな潤んだ瞳で私を見るリュウジくんは、身長デカイのに優しい雰囲気を出していてすごく癒されていた。


「私が大食いだって噂流したのはやっぱりリュウジくんだったか!」

「俺じゃない、オーナーだ!」

「えっオーナーが?」

「そうだ。我が物顔で言ってたぞ?俺じゃない!」

「そっか、ごめん」


ドキドキ。

なんか、やだなぁ。

最近の私は“オーナー”って聞いただけで胸が熱くなる。

どうしちゃったんだろもう。


「で、食ってくれんだろ?」

「あ、うん。食べる食べる」

「あ〜ん」

「いや、いいって」


パイナップルの切れ端を私に差し出す甘いマスクのリュウジくん。

ここには健ちゃんもいるし、さすがにその学生ノリは私にはできないわけで…。


「おい、ミーティング始めんぞ」


低い声と、アキラの温もり。

腕を引き寄せられてそのままメイク室を出て行かされる。


「いつ来たんですか?」

「今」

「そう、ですか」

「お前…この店好き?」

「えっ?」

「いや、ボーイ等ともよく喋ってるし、こっちの店のがいいのかな?って」


アキラの口から初めて聞いた二号店のこと。

でもそれはさっきサクラさんが教えてくれたから二号店だって分かったわけで。

やっぱり噂は本当だったんだ。


「本当だったんですね、二号店」

「え、ああ。誰に聞いたの?」

「…私には何も教えてくれませんでしたね」


あえてアキラの質問に答えることなくそう問いかけたのは、内緒にされていたのが悔しかったからなんだろうか?

私の言葉にアキラは動きを止めてこちらを振り返った。

大きな目が何を言うのか全く想像もできない。

でも次の瞬間アキラの口端が確実に上がった。


「拗ねんなって、ユヅキ」


頬をアキラの指が掠めて…私の唇を指でスッとなぞった。


「なんっ、別に拗ねてなんかないですっ!ただ私はっ…知らなかったから」


サクラさんは知っていたのに、私は知らなかったってことが…

私にキスしたくせに!

私をギュって抱きしめて眠るくせに!




- 44 -

prev / next


TOP