愛してるって言って | ナノ





噂1




例えるのなら虹色。


ずっとグレーだった私の世界に、初めて色をつけたのは、私を雇ったオーナー。


これを、幸せと呼ぶにはまだ早すぎたのかもしれない。



―――――――――――…




その噂を聞いたのは、私がCLUB ISLANDで働きだしてから約二ヶ月が過ぎた頃。


「新店舗ですか?」

「ええ」


ここ最近テツヤさんは忙しいらしく同伴がなくって、でもお店にはできるだけ来てくれてアフターは付き合ってくれていた。

今日も同伴はなしの日で、私はいつもより早く出勤して専属ヘアメイクの健ちゃんに髪とメイクをして貰っていた時だった。

同じく同伴なしだったのか、サクラさんが入ってきて煙草を吸いながらそう口にした。


「オーナーから聞いてないの?」

「何も聞いてません…」

「あら、いがいとアイラちゃんってば遊ばれちゃってるの?」


くすって笑うサクラさんをジロっと睨みつけた。

この女は、私をよくからかう。

そのほとんどがオーナーネタで、正直なところアキラをどう想っているのか私自身分からない。

先週、黒服のナオトくんにキスをされた私を「消毒する?」って…腰が抜けたくらいの生々しいキスをくれてから、あれからいっさい何もない。

あの日、一緒に帰ってそのままシャワーを浴びて、一緒のベッドで眠った。

そう、一緒に眠っただけで特に何もされちゃいない。

それでも後ろから私を抱きしめて眠るアキラにドキっとしたのは嘘じゃない。

けれどそれだけ…。

男の深層心理なんて私には分からないけど、アキラと触れ合っていると、心臓の奥が痒くなってしまう気分だった。


「遊びって、サクラさん何度も言いますけど私とオーナーは別に…」

「分かってるわよ」

「な…」


完全否定されて、その方がなんでか空しいなんて。


「はは、アイラちゃん思ってること顔に出ちゃうタイプでしょ〜」


そう突っ込みを入れたのは、今まで黙っていた健ちゃん。

私の髪に長いズラを設置しながらサクラさんと同じようにくすくす笑う。


「違うもん!」

「まぁ冗談はさておき、どうやらうちの二号店が出るみたいなのよ。オーナー最近忙しいでしょう?」

「それは、まぁ…」




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