愛してるって言って | ナノ





消毒9




さすがの私もバタバタして…でもちょうど駐車場に着いたところでアキラの高級車の前、スッと下ろされた。

そのまま車に乗り込むのかと思いきやポケットから煙草を取り出すアキラ。

すぐにライターをカチっとする私から火を受け取るとゆっくりと視線をこちらに向ける。

大きな目がジッと真っ直ぐに私を見ていてその深さにドキドキが大きくなっていく気がした。


「お前がナンバー1になればいい。そうしたら嫌でも送りはオレの役目だよ。オーナーとしての仕事なんだよ、たく」


クシャっと私の髪を強引に撫でるアキラ。

それは信じろってこと?


「溺愛してないの?」

「なんでキャストに熱入れなきゃ? オレが風紀罰金なんて示しがつかないでしょ」


白い煙を吐き出して口端を上げるアキラ。

それはリンのことも勿論だけれど同時に私のことも興味がないと言われたことを理解した。

私だってカレの元で働く一キャスト。

ナンバー1だろうがリンとの待遇は変わらない。


「そうですね」

「…ユヅキ?」

「はい?」

「お前自分がしてること分かってる?」


困った顔を浮かべるアキラは小さくタメ息をつく。


「自分がしてること?」

「あからさまに落ち込むなよ、オレがそんな顔させたみたいな気になる」


その通りですけど?

なんて言葉は言えるわけもなく…


「顔になんでも出てるよ、お前。喜怒哀楽全部出てる。だからサクラにからかわれるんだって」

「え、私からかわれてたの?」

「そうそう」

「酷いサクラさん」


しまった!と。

完全にサクラさんに聞いたことがアキラにバレて…そんな私を見て「その顔もね」って笑うアキラ。


「どうされたい?」

「え?」

「消毒する?」

「消毒?」


キョトンと見つめる私にアキラの指が伸びてきて私の唇をスッとなぞった。

さっきナオトくんに触れられた唇…。

わ、あ…

ファーストキス…

ナオトくんにとられたんだ私。

どうしてか気分が落ちてしまう。

せめて初めてのキスは自分の好きな人と…なんて考えは消えたはずなのに。

愛や恋に何の期待もしないはずってそう思っていたのに…


「忘れろ、あんなの」


ギュウってアキラに抱きしめられて…―――

その腕を少し緩めた瞬間、また私に影がかかる。

ドキンと鼓動が速まって


高級車を背に、見上げた月は明るかった―――――――




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