愛してるって言って | ナノ





消毒6




「でも私の話してた気が?」

「まぁ、してたけど、お前には関係ないことだ」


テツヤさん、私の肩に回した腕を離す気配はなくて、その手で髪を触っている。

テツヤさんに触られることに慣れてしまっただろう私は、瀬尾のお触りに今更ながら気持ち悪さを感じてしまった。


「うえ…」


小声で呟いたつもり、それでも両隣にいる二人には聞こえてしまったらしく「どうした?」って言葉。


「いえ、今更悪寒が…」

「消毒しただろ。大丈夫だって」


あぁそっか。

だからか。

こうなるって分かっていたからアキラは私にあんな消毒をしてくれたのか。

そう思うとスーっと心が落ち着いていって…


「そうでした」


そう笑った。


「ユヅキ、アキラになんか本気になるんじゃねぇぞ? ろくなことない。絶対ない、絶対だ! 頼むから俺だけのユヅキでいろって」

「テツヤさん…」


私別にアキラに本気になんかなりませんよ。

言ってやるつもりが…


「ほんとにね」


アキラ本人の口からそんな言葉。

何だか胸がザワついた。

私を特別だと、他のキャストにはあんな風に消毒したりしない!って言い張ったアキラのくせに、テツヤさんの「本気になるな」って言葉に同感して…

ふと思い出した、サクラさんの言葉。


“オーナーが熱上げてる感じ”

“リンのこと溺愛してんのよ”


だから…?

私が本気になっても、リンがいるから無理って?


「あの…」


聞かなくてもいいことだって、私の脳はそう分かっているのに、私の口はそれをきかずに、隣にいるアキラに向かって口を開いてしまう。


「なに?」


ダメよ、ダメ…


「リンさんの送りって誰がしてるんですか?」


ギュっと自分の手を握りしめた瞬間――――――…






「…オレ」


そうですか…

って声は、出せたか覚えていない。

思考が止まってしまったみたいに私の耳には音が何も入ってこなかった。


「ユヅキ!」


遠くで聞こえた気がするテツヤさんの声。

もう倒れることはないと思っていたのに、ダメだったなんて。





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