愛してるって言って | ナノ





消毒5




「ISLANDのアイラです! 失礼しまーす」

「おっせぇ」


だいぶ不機嫌丸出しなテツヤさん。

隣に座るとすぐ、私の肩を抱いた。


「…アキラに何された?」

「え?」

「お前の身体に、あいつの匂いが移ってる…」


カアーっとなるのが分かる。

そんなにすごいことをされたつもりはなかったけれど、テツヤさんの言葉に、身体が熱くなった。

だってアキラとのこと、二人だけの秘密ってわけじゃないけど、誰にも言うつもりもなかったし。

それをこのヤクザは一発で当てるなんて、それはそれですごい!

…私をこんなによく見ててくれるんだって、嬉しい反面、やっぱり恥ずかしくなる。


「テツヤさん妬いてます?」


ちょっとだけからかうような私の言葉に「誤魔化すな」ってド低い声で言われた。

真剣な瞳は私の心臓すら射抜きそうで…

今は冗談通じない系だったらしく、抱かれた肩をグググっと引き寄せられる。


「すいませんうちの店、お触り禁止なんっすよ。ユヅキの肩離してもらえます?」


テツヤさんと反対側、聞こえた声に驚いた顔をした私に、アキラの温もりが重なった。

私を自分の方に引き寄せるアキラは、テツヤさんに負けないくらいの眼力で本物のヤクザを睨みつけている。

テーブル内の空気が一瞬で張り詰めた冷たいものに変わった気がして…―――


「別に肩抱くくらいいいだろ。キスしたわけじぇねぇし!」


瀬尾のことを言っているのかそれとも、アキラとのことを言われたのか…

私を挟んで反対側、アキラが軽く口端を上げた。


「新人なんで勘弁してよ、テツヤ」

「お前なぁ…職権乱用はダメだろ」

「よく目ついてんねぇ、鼻か…」

「ユヅキに匂いつけてんじぇねぇぞ」

「それは失敗だったな」

「あのクズは許さねぇ」


テツヤさんの視線が一瞬だけ瀬尾の向いた気がして…。

分かったようにアキラの言葉が続いた。


「店出てからにしろよ?」

「そうする」

「あのっ!!」


私を完全無視して会話をする二人に、思わず声を荒げてそう言うと、いっせいに両サイドから「「なんだよ?」」って言葉と視線が飛んできた。


「な、なんのお話ですか?」

「「お前には関係ねぇよ」」


…何様?

二人して言葉が被ってますけど!

もしこの場に黒木店長がいたら、三人で声を揃えそう…なんて思ってしまった。




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