愛してるって言って | ナノ





消毒4




「あの、消毒ありがとうございます」

「あぁユヅキ!」

「はい?」

「今日はアフター入れるな」

「でもテツヤさん…」

「断れって、じゃあね」

「えっ、アキラっ?」

「オレ、オーナー」


ニヤって笑ってスタッフルームを出ていくアキラ。

黒木店長といい、アキラといい…私をドキドキさせるのがうまい。

あ、そうか!

免疫がないだけで、他のキャストならこんなことぐらいでドキドキなんてしないのか。

でも、私以外に消毒はしないってアキラが言ってたし…

そう思うとまた、私の頬は緩んでいく。


「ユヅキ」

「はいは〜い! 今行きますよ」


アキラを追ってスタフルームを出ると、黒木店長がムスっとした顔で私を呼んだ。

気づいたけど、テツヤさんといい、アキラといい、黒木店長といい、最近はお店でも私を「ユヅキ」と呼ぶ。

いつの間にかカレ等三人の中では、私の源氏名は関係ないらしい。


「テツヤに何かされたら俺に言えよ、ユヅキ…幼馴染だろうが店内ではお触り禁止なんだから」

「うん、分かってる。ねぇケイジ?」

「なんだよ?」

「助けてくれてありがとう」

「俺の担当だからお前」

「それだけ?」

「あ?」

「別に」

「お前期待してんの?」

「だから別に」

「俺は風紀罰金はごめんだぜ」

「私もね」

「早く行け」

「は〜い」


ホールに出るまでにそんな会話を交わしていることなんて誰も知らない。

黒木店長の名を隠して、私をユヅキとして扱ってくれるケイジが嬉しかった。


「よし」っと気合いを入れて私は煌びやかなホールに歩いていく。




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