愛してるって言って | ナノ





初出勤7





「まだ起き上がれないだろ?」

「…はい、たぶん」

「ここソファーだし、家運んであげる、特別に!」

「あのっ、テツヤさんは?」

「とっくに帰ったって、あいつも暇じゃないしね。一応こっちのボス張ってっからさぁ」


…怒ってるよね、きっと。

せっかく指名してくれたのに、申し訳ない。


「大丈夫だよ、テツヤは。別に怒ってもないし、また来る! 言って笑ってたから、そう気にしない! ケイジ、車回して」

「おう」


パチっと目を開けると、黒木店長が下に下りて行くところだった。

私のせいでみんなに迷惑かけちゃった。

情けないなー…


「オーナー」

「ん?」

「ごめんなさい、迷惑かけて」

「気にしない。最初だしオレも多めに見てる。慣れるまで目瞑ってやるよ! だから辛いだろうけど、早く慣れてよね」

「はい」


優しいんですね…って言葉は、飲み込んだ。

オーナーが優しくすることに甘えていたかった。

自分は特別なんだって、思っていたかったんだ。


「アキラ、車いいぞ」

「おー! ユヅキ首に腕回せ」

「え?」

「抱えてあげる、ほら」


アキラが言ってることは分かる。

分かるけど、それって俗に言う…「お姫様抱っこ?」口に出すと、途端にドキドキしてきた。

ヤバイ、ヤバイ!!

そんな抱えるとかいらないし!


「大丈夫です、自分で歩ける」

「歩けないから言ってんの、早くして!」


…強引に、半強制的に、アキラの腕が私の腰に回って、反対側の腕が私の膝の裏を持ち上げた。

フワっと身体が浮いて、ド至近距離にアキラの横顔。


「緊張してんの、お前?」

「当たり前です! こんなことされたの初めて!」

「初めての男がオレかぁ! いい響きだね」

「な! …変なこと言わないでよ」

「間違ってはないだろ?」

「そうだけど、でも変な意味に捉えないでよって」

「いいじゃん、特別で」


どうしてこの人は、“特別”って言葉をよく使うんだろうか?

色恋に疎い私は、この人がどんな意味でそう言ってるのかを知るにはまだ早すぎた。




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