初出勤5 「ISLANDのアイラです、こんばんはー!」 そう笑顔で言って軽く頭を下げると、大股開いたヤクザのテツヤさんがニヤっと笑った。 来いって顎で私を呼び寄せて、「失礼します」って言って、テツヤさんの隣に座った。 「酔ってんなぁ、ユヅキ」 どうしてか、私を本名で呼ぶテツヤさん。 「一応アイラなんですけど」 「いんだよ、俺は特別。お前を源氏名でなんか呼びたくねぇよ!」 この人の言うことは意味が分からないことばかり。 でも怒らせるわけにはいかない。 「じゃあテツヤさんだけ特別ですよ?」 「おお、そうしろ。ところでお前、今日アフター付き合えよ?」 「え?」 思わぬテツヤさんの言葉に、私はキョトンとした顔を浮かべてしまう。 “アフター” それは、お店が終わった後、お客さんとカラオケに行ったり、別のバーで飲み直したりすること。 そして、その延長にある“枕営業” …―――抱かれて指名をとること。 これは、枕のお誘い? サクラさんの言葉が頭の中で何度も繰り返される。 テツヤさん、私がそういう経験がないって知ってるはずなのに、どうして? 「お前変なこと考えてんだろ?」 「えっ?」 「枕誘ってるわけじゃねぇぞ、俺? アフターつっても必ずしも枕だと思うなって…ショックだわぁ」 うな垂れるテツヤさんは私の肩に頭を乗せる。 うちのお店はそういうお触りも本当は一切なしだけれど、この程度は単なるスキンシップでお触りには入らない。 でも、そういう経験が全くない私は、異性が肩に頭を乗せただけでもドキっとするわけで… |