愛してるって言って | ナノ





初出勤4




さっきから何だか頭がボーっとしてフワッとするのは気のせいだろうか?

人生初のお酒に、味なんか当たり前に分からない私は、ただグラスにある高級シャンパンを飲み続けていた。

道明寺さんは、恋人のつくしさんのことを色々と喋っていて、自分がこんなにしているのに彼女の気持ちが見えなくて…ちょっと凹んでいるって感じ。

ここには、機嫌のいい時と、後は落ち込んでいて慰めて欲しい時に来るみたい。

サクラさんは、道明寺さんの知り合いのお友達みたいで、それで指名してくれているらしい。

この人はお金持っているからいつか私のことも指名してくれないだろうか?なんてこっそり思っていた。

でも、ヘルプの席で、指名客に自分を売り込むことは禁止されていて、それはルール違反になってしまう。

別にサクラさんに対しての感情はない私でも、お店のルールは守らなきゃいけないって思っている。


「失礼します、アイラさん、テツヤさん指名入りました、いけますか?」


気が付くと私の傍、黒木店長がひざまづいてそう言った。

チラっとサクラさんを見ると、小さく頷いて、もしかしたらサクラさんも私がいない方が道明寺さんと色んな話ができるのかもしれないって。


「はい、大丈夫です」


黒木店長にそう告げてから私は、反対側、道明寺さんに身体ごと向きを変えた。


「申し訳ありません、失礼します」

「おお、行ってこい」

「ありがとうございます」


そう言って立ち上がった瞬間、慣れないピンヒールと、身体に回ったお酒とで、フラっとした私の身体、慌てて黒木店長が私の腕を支えてくれる。


「大丈夫ですか、アイラさん? 酒だいぶ回ってます?」

「…すみません、大丈夫です、ちょっとフラフラするだけ…」


そう答える私に、黒木店長はほんの少し困ったように眉毛を下げた。

でも、初出勤で指名してくれる人なんてテツヤさんしかいるわけなくて、研修中だし多めに見て貰える?

グッとかかとに力を入れて私は黒木店長の腕を剥がした。


「行きます、オーナーが責任とってくれるから!」

「ハハ、言っときますよ」

「うん」

「ナオト! アイラさんご案内して」

「はい」


黒木店長からナオトさんにバトンタッチされた私は、口端を上げて近付いてくるナオトさんに誘導されて、テツヤさん達の待つテーブルに移動した。




- 20 -

prev / next


TOP