愛してるって言って | ナノ





買い物3



「ケンちゃん、おはよー! 明日ネイル変えたいんだけど、やってくれる?」

「もちろん、いいよ」

「ありがとー!」


ギュウってキャストの子がケンチさんに抱き着いた。

それは、普通の光景なのかもしれない。

しれないけど…―――

後ろで着替えてる子、下着姿ですけど!!


「あの、ケンチさん、ここ着替えてるんで…」


慌てて私がそう言うと、「大丈夫だよ、僕は」そんな回答。

なにが大丈夫なの?

なんて視線を飛ばす私に、「僕、心は女だから」って一言。


「え」

「恰好も言葉使いも男みたいだけど、心は女。でも男が好きっていうわけじゃないよ? 心女だけど、女にしか反応しないし。でもキャストの子との恋愛はご法度だから、別に何の感情も生まれないよ。それ分かってるからって、僕だけ特別にここに入るの許して貰ってる。だからアイラちゃんもここに僕が入ってきても意識しないでね」


サラっと、すごいことを言ってのけた。

納得できるような、できないような…複雑な感情だった。


「…分かりました」

「うん、じゃあこのドレスしまっちゃおう。アイラちゃんのロッカーここだから」


そう言ってケンチさんが私のロッカーにさっきオーナーが買ってくれたドレスを丁寧に仕舞ってくれた。

本当、動き一つとっても綺麗で、そういう部分で女なのかなって勝手に思ったんだ。


「あんたがアイラ?」


そんな私に声をかけてきたのは、背が高くで超細い美人。

サクラさんとはまた違った雰囲気の気の強そうな感じの大きな瞳をギロって私に向けている。


「はい、よろしくお願いします」


丁寧に頭を下げる私に、その人は上から下まで舐めるような視線を送ってから「よろしく」って一言呟いた。

でもその勝ち誇ったような顔に、私は内心イラっとした。

きっとこの人がそう…




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