指導4 「そう。滅多に担当持つことしないわよ、店長クラスが。リンだってナオトさんだったもの、最初は。それに、研修担当も最初につかせるのはだいたいがナンバー2のスズ。あの女は性格が悪いっていうか、でも仕事はこなすから、ようは厳しいのよ。それでついてこれない女はいらないって。でもこの店を知ってる古株はあたし。だからあたしが研修に一番向いてるの、オーナーも分かってて今回あたしにつかせたんだって」 「…スズさん?」 「口が上手いのよ、あの女。言ってることの9割はウソだから信じちゃダメよ! いい? 分かった?」 「はい」 信じるなんてそんなことしないよ。 信じて裏切られるくらいなら、最初から人なんて信じない。 「店長担当ってことは、嫌でもオーナーに報告がいくんだから、オーナーはそれを知りたいんでしょう。だからアイラちゃんはオーナーのお気に入りなのねって。気をつけなさいよ、オーナーああ見えてモテルから…女の陰湿なイジメほどみっともないもんはないわ」 まるで自分が体験したような言い方だった。 でもそれを聞くのは失礼かなとか、空気悪くなるかなとか、そんなことを思った私は、結局何も聞かなかった。 「あ、それで…永久指名って?」 「ああ、話がズレたわね、ごめん。永久指名ってのは、そのまんまよ、“永久にあなただけを指名してやる”…変わりに、色んなこと要求されるし、鳥籠みたいなもんね。お金を積んでくれる方なら尚更、永久指名が入ると、もうその人の女みたいなもん…だからテツヤさんの永久指名なんて絶対受けちゃダメよ!」 「…はい」 要求…されたらどうしよう? そんなこととは知らずに、私はテツヤさんの「永久指名してやろうか?」の言葉に「え、はい」なんて呑気に返事をしてしまっていた。 でもあの時傍にオーナーもいて、スタッフさんも沢山いたし、絶対聞いていたはずなのに、誰も助けてくれなかった。 ああ私、ヤクザの女になっちゃうの? そんな恐怖も吹っ飛ぶくらい、翌日から私は研修でお店に出ることになった。 ちょっと違うその接客に慣れるまで、いったいどのくらいかかるんだろうか? そんな疑問を持つハメになるなんて… |