愛してるって言って | ナノ





指導1




「サクラ」


オーナーにそう呼ばれて、私の目の前、ド派手な化粧の美人が現れた。


「はいはーい」


呑気な声でそう返事をしたサクラは、最初に会った日のオーナーと同じように私を上から下まで舐めるように見たあと、「宜しくね、アイラちゃん」そう笑った。

でも、その笑顔が不自然な気がして、私は小さく頷くだけ。


「この仕事初めて?」

「はい」

「慣れれば楽しいから、頑張って覚えてね?」

「はい」


それからサクラさんはお酒の種類から金額から、仕事の仕方から言葉づかい、接し方、ありとあらゆる全ての仕事内容を私に教えてくれた。

でもそれは、あくまで口での説明であって、実際の私が、動けるか?ってなったら答えは確実に「NO」である。

そんな簡単そうにツラツラ言ってるけど、その半分も実践できないだろうな―…なんて思うわけで。


「煙草吸うの?」

「いえ」

「お客様が煙草を構えたら、すぐに火を差し出して、やり方はこうね」


それは、たまたま近くにいた黒沢オーナーが、煙草を口に咥えた瞬間、サクラさんがライターをカチっと差し出した。

その綺麗な動きに一瞬見とれて、私はジッとそれを当たり前みたいにするオーナーと目が合った。


「なに、アイラ?」

「いえ…」

「なんだよ?」

「いえ何でも…」

「何でもオレに言えって言ったよね?」

「それは、そうですけど…」

「じゃあ、言って」

「あのじゃあ…」

「ん」

「動きが綺麗で見とれてました」

「…それで?」

「それだけです…」


私の言葉に呆れたような顔を浮かべたオーナーは、そのまま私を置いて、どこかへ行ってしまった。

そんな私に対してサクラさんは興味津々って顔。

私の方に一歩近づいて、綺麗な顔を寄せた。




- 9 -

prev / next


TOP