プロローグ 物心ついた時から父親はいなかった。 気づくと母親と、それから若い男が出入りする私の家。 どう見たって年下の男は、いわゆる「ホスト」という奴。 別に母のことを好きそうになんか見えやしない。 どう見たってカモ。 それなのに、毎回毎回この人は本気になる。 いっつも騙されて泣かされて捨てられて、溜まっていくのは借金ばかり。 父がいない理由も知らなくて、母は男がいなきゃ生きていけなくて、そんなところで育った私は、当たり前に人間が嫌い。 誰も信用できない、誰も信じない。 母みたいに、騙されて泣きを見るなんて、私は絶対に御免。 男に本気になって尽くすなんて馬鹿げている。 そんな安い女には絶対になったりしない! けれど、現実は厳しい。 辛うじて定時制の高校を卒業した私は、大学に行くお金もない。 昼間汗水流して働いた私のお金は、借金の支払いと、残りは全部母の男に注ぎ込まれる。 もうこんな生活限界。 普通に暮らしたかった。 そんな普通すら私には許されないなんて…。 19歳の夏、バイト代を貰った私は、そのお金と少しの荷物を持って家を出た。 私を生んでくれた、母親を…――――捨てた。 |