愛してるって言って | ナノ





全てを忘れる愛してる4




【俺…ずっと帰んなくてごめん…―――頭冷やしてた】

「…ナオト…」

【今どこ?】

「え…自分の家…」

【今から逢えねぇ?】


耳元で掠れ気味のナオトの声がして。

アキラに抱かれている最中だっていうのに、私はナオトを拒否することができそうもなくて…。

でも、ここにアキラを置いて出かけることも出来なくて…

自分のしていることが最低なんだって、今更ながら強く実感した。

実感した所で現状が変わるわけもなく…―――


【今逢いてぇ…んだけど…マジどこにいるの?】

「ナオト…」

【ユヅキ…どこ?】

「ナオト…」


ごめんなさいっ、行けない…

どうしても言えないその言葉に、私はその場にしゃがみ込んだ。

いつアキラがあのドアから出てくるかも分からないのに。

こうして電話片手に泣いていたらアキラは「どうした?」って声をかけてくれるはずなのに…。

そしたらきっとアキラの声までナオトに届いてしまう。

だから泣き止まなきゃって思うのに…


【何で泣いてんだよ?まさか又店長のとこ?】

「違う…家よ…」

【だったらおいで。俺迎えに行こうか?】

「ナオト…私…―――ごっ…」


言えない…

言えるわけないっ…―――「今から行く…」そう言って携帯を切った。

放心状態でその場に佇む私をアキラがそっと毛布をかけてくれた。

何でこんな時に優しくするの??


「客か?」


…――涙を我慢できない私の頬をアキラの指がスッと撫ぜて拭ってくれる。

お客さんのわけないのに。

客と話して泣くわけないのに。


「色恋は面倒なこともあるから気をつけろよ?」

「うん…」

「ユヅキ」

「………」

「悪いけどお前を離す気はねぇから」


そう言ってキツク抱きしめられた。

折れちゃうんじゃないかってくらいに強く…。

電話の相手がナオトだって絶対に分かってるんだって。

でも私を信じて何も聞かずにいてくれたアキラを、やっぱりどうしようもなく愛おしく思えた。


――――――――…


合鍵でナオトの部屋を開けると、ベッドの上で煙草を吸っているナオトがいた。

私の顔を見て灰皿に煙草を押し付けるとつかつか歩いてきて…―――


「店…一緒に移らねぇ?俺と一緒に…」

「え…―――」


思いもよらぬことを言われたんだ。




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