愛してるって言って | ナノ





優しさの定義2




ふう〜っと、一つ大きく息を吐き出してから私は自分の想いをゆっくりと健ちゃんに伝えていった。

何をどう言えばいいのか分からなかったものの、今更何を隠しても無駄な気がして、本来なら許されないお店の風紀を乱す恋愛事情を全て健ちゃんに吐き出すと、自然と気持ちが軽くなっていくのを感じていた。

俯いたままの健ちゃん。


「健ちゃん?」

「うん…」

「あの…」

「アイラちゃんやっぱりオーナーと付き合ってるんだ…そっか」

「付き合ってるっていうのか分からないけど…」

「じゃあ尚更こんな場所にいたらダメじゃん!」


そう言って健ちゃんがやっと顔を上げた。

でもその表情はどうして曇っていて…。


「今日は帰れないかも…って。一緒にいたのレイラさんと。それってそういうことでしょ?」

「…それ黙って知らないフリでいいの?分かんないけど、もしも本当に浮気してたら、それ知らないフリでいいの?」


健ちゃんの真剣な瞳はちょっとだけ吸い込まれそうで、ほんの少し私たちの距離が縮まった気がした。

恋愛経験不足の私は、こういう時どうすればいいのかが分からない。

アキラを問い詰めても、真実を聞いたらきっと私自身が落ち込んでしまう。

そうかも…って曖昧なままでいた方がいい気すらする。

違うかもしれないって可能性を0にしたくないのかもしれないね。


「分からないの。真実を受け止める自信もないし、だから問い詰めることなんてきっとできない。でも、今この瞬間も一緒にいるのかもしれない…もしかしたらレイラさんを抱いているのかもしれないって思うと、胸が苦しい。私の入り込む隙間なんて本当は1ミリもないのかもしれないって思うと、苦しい…」

「そんないい子でいる必要なくない?」

「えっ?どういう…」


健ちゃんを見つめる私、私を見つめ返す健ちゃんは切ない顔で…


「こんな夜中に逢えるなんて…」

「…健ちゃん?」

「…僕の男部分を出させるなんて、アイラちゃんだけだよ…」


分からなかった。

言われた意味は分からないのに、健ちゃんの行動の意味は分かってしまった。

視線は健ちゃんと天井で。

ソファーの上、私を上から見つめる健ちゃんは泣きそうで、苦しそうな表情。

あの時感じた安心感が消えていく…


「ごめん…―――アイラちゃんが好きなんだ」


掠れた切ない声が届いた。




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