愛してるって言って | ナノ





優しさの定義1




いきなり抱きついた私を吃驚したように「わっ…」ってよろけたけど、すぐに肩に手を置いて「どうしたの?」小さく聞く健ちゃん。

私は健ちゃんの背中にピッタリくっついて顔を埋めるばかり。

現実世界から逃げ出したい…―――そんな気持ちだった。


――――――――――…


「…落ち着いた?」

「うん、ごめんね」


コンビニの前の壁に寄りかかる私に水をくれる健ちゃんは寝間着みたいなラフな格好だった。


「家、この辺なの?」

「うん、すぐそこ。うち来る?どうせ一人になったらもっと泣くんでしょ?」

「…もう泣かない。でも一人になりたくない…」


隣にいる健ちゃんと私の隙間はなくって、腕と腕がピッタリとくっついている。

健ちゃんはいつも温かくて、安心できる。

テツヤさんとはまた違った安心感があるんだ。

こうして触れ合っていても、ドキドキしない。

私の言葉に一度空を見上げて大きく息を吐き出すと、「はいっ」って手を出してくれて…

それが「いいよ」って合図なんだって。

だからその大きな手をギュっと握ると、ゆっくりと私を連れて歩き出した。


「ほんとにすぐなんだ」


数百メートル歩いたらついた健ちゃんの住むアパートは小さいけど綺麗なところで。


「アイラちゃん…」

「ん?」

「最初に言っておくけど、僕も一応オトコだから…ね?」

「うんうん、分かってる」

「…いや、分かってないでしょ…」

「お邪魔します」

「…も―…」


さっきまでこの世の終わりみたいな気持ちだったのに、健ちゃんが傍にいてくれるだけで、こんなにも明るい気持ちになれるなんて…。


「ベッドに座ったら俺、オトコになるから!」


リビングのソファーに座った私にまるで警告のようにそう言って。

でも健ちゃんらしくないっていうか。

そんな男を出してくることなんてほとんどないから、だから私は安心しきっていたのかもしれない。


「分かってるよ!」

「分かってないから言ってんの!」


コツって私の頭を全然痛くないゲンコツで叩くと、紅茶を淹れてくれて。


「それで、何があったの?」


私の隣、ソファーに座った健ちゃんは本題だって感じに私を見てそう聞いた。

ドクンと胸が高鳴って、さっきまでの苦しい気持ちが蘇ってくるようだった。




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