愛してるって言って | ナノ





傷ついた恋人1





「飲んで」


ナオトが淹れてくれた温かいココアは甘くて美味しい。

ソファーに座ってジッと私を見ているナオト。

怒っているのか、よく分からない。


「ごめんなさい」

「…なんで謝るの?…謝られると店長と何かあったんだって思えちゃうんだけど…そういうこと?」


諭すような口調で言われて私は首を横に振った。


「じゃあなんで店長の家行ったの?」

「ナオト…」

「俺ってそんなに頼りない?俺じゃユヅキを守れないってそう思ってる?」


吐き出すような口調だった。

当たり前にナオトをも傷つけてしまったバカな私。

溢れてくる涙をグッと喉の奥で噛み締めて目に力を入れた。

人の優しさを知ってしまうと、自分が弱い人間になっていくことを知って。

人間を信用しなかった昔の私は、こんな風に人前で泣いたりなんてしなかったのに…。

どんどん変わっていく自分が、怖くなった。


「榊原にオーナーの過去を聞く為に、店長に頼んでテーブルにつけて貰ったから…」

「それで?テーブルつかせたからって店長に抱かせろとでも言われたの?それでのこのこついてったのっ?!」


バンッ!!

ソファーの前、ガラステーブルを拳で叩きつけた。

怒られて当然だって思うけど…こんなナオト初めてで…どうしていいか分からない。

刺すような視線で私を睨みつけるナオト。

苛々感絶頂のナオトは、煙草を咥えて火をつけた。


「俺ってユヅキにとって何なの?ただのアッシー?恋人じゃねぇのかよっ!?」

「ナオトッ…ごめんねっ!!ほんとにごめんねっ!!」

「分かんねぇよ、ユヅキの考えてることっ…。オーナーを好きなことぐらい見てりゃ分かるけど…店長は違うんじゃねぇのっ…」


アキラを好きにならなければ、こんな風にならなかったの、私…。

アキラを好きになったが為に、みんなを傷つけてしまうの、私…。

あの温もりを独り占めするには、こうするしかないの、私…。


「ごめんなさい…。でも何もしてない…だからここに帰ってきたの…」


それでも「信じて」って言葉は言えなかった。

もうナオトに任せるほかないんだって。

どれだけ言い訳をした所で、ナオトの気持ちを変えることなんてできないって。


「…頭冷やしてくる。ユヅキはここにいて…戻ってくるから」


バイクのキーと携帯片手に部屋を出て行くナオトの後ろ姿に、堪えていた涙が零れた。




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