愛してるって言って | ナノ





私達の居場所1




改めて思う…

綺麗な顔。

骨ばった骨格。

赤めの唇…

優しい瞳…


「アキラ…」

「………」


好き…って言えばいいのに、アキラを見つめているだけで胸がいっぱいで、言葉よりも涙が溢れてしまう。

そんな私の頬をボロボロ伝う涙を指で一つ一つ拭ってくれるアキラは、あの日見せた怒りの顔なんて想像できないくらいに優しいんだ。


「泣いてんなよ」


そう言う口調も優しくて…どうしようもなく想いが溢れてくる。

この人の腕に素直に飛び込めたらどんなに幸せなんだろうか?って。

何も考えずにただ、抱きしめて貰えたら、どんなに幸せなんだろうか?って。


「もうここには来ないかと思った」


吐き出すように言った言葉に、少しだけ目を逸らすアキラ。


「…ここ以外ねぇよ、オレが帰る場所なんて…」


そんなはずないのに。

アキラみたいな素敵な人、女がほおっておくわけないのに、そんな言い方。


「…期待させないでください…」


そう言うのが精一杯。

本当にこの人は、散々私を期待させておきながら、何も言ってくれないのに、今みたいに、間接的な言葉ばかりを並べて私を混乱させるんだ。

それがアキラのやり方だと言われたら、私はそう…アキラの蜘蛛の糸に引っかかったただの蝶。

逃げ出すことさえできない、弱い蝶。

でも、その場所の心地よさを知ってしまっているから、自分から逃げ出すことすらないんだって。


「オレがみんなに同じこと言ってると思ってんだろ、お前」

「思ってる」

「舐めてるな」

「じゃあ期待していいの?」

「好きにしろよ」

「本当にいいの?」

「勝手にしろ」

「私と罰金払ってくれるの?」

「うるせえのはこの口か――――」


ドサっと、アキラの身体が私の上に被さって視界が遮られた。

感じるのはアキラの温もりと、甘い香り。

それに混ざった煙草の香りと、煙草の味。


服が擦れる音と、絡み合う舌から漏れる水音と…―――――私たち二人の吐息しか聞こえない。

このキスが答えだと思っていいの?

この温もりを私だけのものにしてもいいの?

ギュっとアキラの背中に腕を回したら「ユヅキ…」耳元に切ない声が届いた。


リビングに置いたままの鞄の中で、ずっとナオトからの着信があることにすら気が回らなくて…

ただこの瞬間を、誰にも邪魔されたくないって…――――それだけだった。




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