ずるい男 「………アキラ…」 一言名前を呼ぶと、どうしてかアキラへの想いが胸の奥から湧き上がってしまって…――――気づいた私は一人、泣いていた。 止めどなく零れ落ちてしまう涙を拭うこともできずに、寝室のドアに背を預けて、アキラの元に歩けもせずに、その場で泣くだけで…。 さっき藤堂に聞いたレイラさんとの密会も、この前私に向けた冷たい視線も… 今はどうでもいい。 やっぱり私どう考えてもこの人が好き。 でも、この人を想うことは…辛いことばかりで… まともな恋愛経験のない私には…重すぎる。 それなのに… ギシッ…とベッドの音が鳴って、寝返りをうったアキラがうっすらと目を開けた。 「なに突っ立ってんだ。早くこいよこっち」 …え? だってあの…すんごい私のこと怒ってたよね?! だからもうここには帰ってこないって思ってたんだよ私。 「ユヅキ!」 「はいっ!」 「さっさと来い」 「…はい」 金縛りが解けたみたいに動き出す私の足。 一歩一歩アキラに近づいていく。 ベッドの足元に立った瞬間、起き上がったアキラに手首を掴まれてベッドにダイブするはめに! 顔からベッドに落ちた私を、そのまま後ろからギュっと抱きしめた…――――― 「アフターか?」 そんな質問。 だからコクって頷く私に「そっか」そう言って腰に回された腕に力が込められた。 ドキンドキン…重なってるアキラの胸から鼓動が振動で伝わってくる。 どうしてこんなに早いの? まさか、起きてたの? 本当の本当は私のこと、待っててくれてたの? 「アキラ…」 「………」 「約束破ってごめんなさい…」 「………」 何も言ってくれないアキラに一気に不安になって、クルリと向きを変えようと身体を動かす私を、アキラの腕がそれを止めた。 「こっち向くなよ」 どうして? 「お前の顔みたら、全部飛んでっちまう。だからこっち向くな…」 そんなこと、ずるい。 私に何も言ってくれないのに、そんな言葉…ずるい。 私ばっかりアキラが好きで、ずるい。 もしも私が振り向いたら、私を抱いてくれるの? 「アキラ…」 「なんだよ」 「そっち向きたい」 「無理」 「お願い」 「………――抱くよ?」 それでも… 私は緩まったアキラの腕の中でクルリと身体を動かして真っ直ぐにアキラを見つめた。 |