愛してるって言って | ナノ





かけひき1




「今の店長さん?」


藤堂の前、去っていく後ろ姿を見つめていた私にそんな藤堂の問いかけ。

ハッとしてすぐに藤堂に笑顔を見せた。


「あ、はい…」

「そう。アイラちゃんはさぁ…」


不安そうな顔を見せる藤堂。

色恋で引いてるこの客にはそう…―――「藤堂さん」手を握って少しだけ身体を寄せる私に、息を飲み込む藤堂。


「じつは前川さんって私のお客様なんですけど…交際申し込まれていて…私好きな人がいるからってお断りしたんですけど、納得してくれなくて…それでさっきお店の前で待ち伏せされちゃったんです。たまたま送りで出てきた店長が気づいてそれで私を藤堂さんの所まで連れてきてくれたんですけど…前川さん今後もしつこいかも…ちょっと怖くて…。私のことナンバー1にするって言ってくれて有難いんですけど、そういうの困ちゃって…。私が好きなのは…――」


ニコっと藤堂に微笑んだら、パア―っと表情を変えた。

握った私の手を強く握り返してきて…


「アイラちゃん…その好きな人ってもしかして…」

「ダメですよ、こんな外じゃ。でもね藤堂さん…キャストとお客様はダメなんです…。でも私どうしてもお金が必要でまだお店辞めることできないの。ナンバー1になったらお給料もあがるし…そしたら自分の好きな人に、ちゃんと想いを伝えようって決めてるんです…」

「アイラちゃん、気づかなくてごめんね!前川って奴よりも俺がアイラちゃんをナンバー1にしてあげるから!だからガンバロ、一緒にさ!」

「藤堂さん、本当にいいんですか?」

「勿論だよ!俺アイラちゃんに運命感じたんだから、絶対ナンバー1にしてあげる!」

「嬉しい、アイラ!じゃあ明日も同伴してもいいですか?なんか最初っから一緒に居たいっていうか…」

「うん、勿論さ!俺の予定全部アイラちゃんに預けるから!」


本当に私の本心だと思っているんだろうか。

ホストに心を奪われていた母のことを思いだした。

甘い言葉がウソか真実かも分からなくなってしまうのかもしれない、この世界は。


「じゃあ行こうか、いいお店あるんだ」

「はい」


藤堂の腕に絡めた自分の腕。

仕事だけど、やっぱり嫌だなって思った。

腰に回されたケイジの温もりがそれでも私をまとっていて、一人でドキドキしていたなんて。




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