愛してるって言って | ナノ





遅れてきたトキメキ1




何となく一歩後ろに後ずさりする私に、逆に一歩近づく前川。


「あの、前川さん私もう行くので…」

「待ってよアイラちゃん!」


前川の前を通って行こうとする私の手首をガンっと捕まれた。

尋常じゃないぐらいに嫌な目つきで私を見つめていて…


「前川さん!!困ります!!」


つい大きな声を上げてしまった。

捕まれた手首が痛くて、無理に解こうとするも強く握って離してくれない!!

やだ、助けて…――――アキラッ!!




「何してんだ、てめぇ」


グイっと私の腰に回された手と、私の手首を掴む腕に、身体がフワリと浮いて。

真っ黒のスーツが目に入る。


「アフター以外での外での逢瀬はルール違反だろが!」


なめらかな声だけど、中に怒りが含まれているのがよく分かる。


「ボクは一目アイラちゃんに逢いたくて…」

「腕握る必要はねぇだろ?」

「そうだけど…アイラちゃんが逃げようとするから」

「んな切羽詰った顔で来られりゃ、アイラじゃなくても逃げんだろよ!」

「…帰ります」

「そうしろ!」


それでも私を見て手を振る前川が初めて怖いと思った。

今までお客さんで怖いと思ったことなんてなくて…。

だからどうしようもなく身体が震えてしまう…。



「ユヅキ大丈夫か?アフターやめる?」


私を抱きしめながらそう聞いてくれるけど、あの日決めた決意は固くて…


「行きます…私」

「んじゃ藤堂のとこまで一緒に行ってやる」

「…うん、ごめん…ケイジ…」

「別にいいよ」


アキラが助けてくれるなんて、そんなことないよねそりゃ。

きっとケイジは今日の前川の態度見て心配で様子見に来てくれたんだって。

店長としてなのか、ケイジとしてなのかは分からないけど、どっちにしてもケイジが助けてくれてよかった。


「別にアフターなんて行かなくてもユヅキはこっちに残してやるけど?」


不意に言ったケイジの言葉に、脳が止まったんじゃないかって。

見上げるケイジはプライベートにしか見せない笑顔で「俺がお前を離すと思う?」なんて言うんだ。


「本気だって言ったよな、俺」

「…え」

「重ねてねぇし、別に。最初からユヅキしか見てねぇんだけど…」

「え…」

「もう遠慮しねぇから悪いけど」


ポンと、藤堂の少し手前で私を離すケイジ。

その後ろ姿に、初めて胸がトキメいたんだ。




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