胸の奥の証6 「お前さ…誰のもんにもなってねぇよな?テツヤに抱かれたのかよ、マジで…」 撫ぜていた髪を引っ張ってそこにそっと口づける。 静かに目を閉じたその顔は、思った以上に綺麗で、一瞬見とれてしまうほど。 「ケイジって…よく見るとすごい綺麗な顔だね」 「話逸らすなよ、ユヅキ」 「あ、ごめん…」 「たく」 「心配してくれてるの分かるけど…言いたくない」 「…お前男心分かってそう言ってんの?」 ドキっとする。 ケイジの手が私の腰に回って、距離がいっそう縮まるから…。 ここはどこからも死角になっていて見えないけれど… 「ケイジ…離してよ?」 「拒否んの、俺のこと?」 そんな質問。 この人は私を困らせる天才だ。 いつだって私の気持ちをお構いなしで… 「拒否るよ、だって罰金は嫌だってケイジが言ったでしょ?」 「…まぁそうだけど…。お前あの前川っつー客要注意しとけ。あの手のタイプはバージンにしか興味がないぜ…お前の話聞いて目の色変えたろ…キャストはみんなそれなりに恋愛経験多い子ばっかだって頭だから、お前みたいな何でも素直に話す女に興味持つなんてすぐだ…。あんま自分のこと話さねぇ方がいいぞ…」 耳元でそう言われて。 ケイジの視線が私の胸元に落ちてくる。 バッと開いた胸元を押さえて苦笑いを零す私は「分かりました」そう言った。 わざと敬語を使ったのは仕事に戻るって意味で。 「…ユヅキ、お前男できてねぇよな?」 歩き出す私の後ろ姿にもう一度そう問いかけるケイジ。 振り返った私を切なく見つめているその目は、今も私とレイラさんを重ねているの? だからそんなに切ない目で私を見るの? アキラが愛したたった一人の人を、きっとケイジも同じように愛していたんだと。 そのレイラさんにそっくりな私。 レイラさんもこんな風にケイジに見つめられたんだろうか… 私にはちょっと耐え難い。 ケイジの気持ちを思うと至極胸が痛かった。 でも、私にはどうしてあげることもできなくて… 「罰金払ってくれないんだもん、ケイジ」 笑ってそう言った私に、安心したように微笑み返すケイジに、胸の中で「ごめんね」そう呟いた。 私の胸に刻まれているのは、ナオトの証なのだから。 |