愛してるって言って | ナノ





過去の傷跡が見えた夜4




「サクラさん…その人は、私に似ているんですか?!」


聞いちゃいけない気がした。

テツヤさんがあれだけ隠したことだから、私が聞くことじゃないんだって。

そして、答えを聞いたところで何かが変わるわけではない。

けれど…私の中に渦巻いた感情を無視することも、ほおっておくこともできそうもないんだ。

そう、答えを聞いたから何かが変わるなんてこと…―――







「そっくりよ」


…―――――そんなことは、ない。

ポロっと零れ落ちたのが涙だと分かったのは、サクラさんが困ったように「アイラちゃん…」そう呼んだせい。


「好きになっても苦しいだけよ、あの人は…」


サクラさんの声が耳を通ってでていく。

喉の奥がすごく熱くて、目の奥がすごく痛い。

感情が高ぶって、次から次へと涙が溢れて止まらない。

愛を知ってしまったがための痛みだというのだろうか、これが…。

胸の奥をギュっと鷲掴みされたみたいに痛くて…―――

気づいたら私は、携帯のリダイヤルを押していた。









『―――どうした?』

「あの…お願い…あの…私…」


言葉さえうまく繋げない私を分かっていたかのように安心できるその声に、余計に涙が零れ落ちた。


『店の下にいる。早く降りてこい』

「…うん」


私の異変に気づいて、でも何も聞かずに私を受け止めてくれる人なんて、この世にたった一人しかいない。

その感情を「愛」と呼ぶのなら、私は彼を愛している――――


高級車の後部座席を開けると、静かに目を閉じていた彼がこちらを振り向いた。

私が乗り込んだのを確認してから「出せ」そう言った。

流れるように走り出した車がいったいどこへ向かっているのか、私には何も分からない。

ギュウっと彼の服の袖を握りしめる私の腕は、自分でも分かってしまうくらいに震えていて。

そんな私の腕を握り返してくれる優しい人。


「今日はアフター入れんな」


そう言ったアキラとの約束は守れなかった。

私はこの日、アキラの待つあのマンションに帰ることができなかったんだ。




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