愛してるって言って | ナノ





過去の傷跡が見えた夜3




「振り回すだなんてそんなつもりないです、私」

「だったら今日のフリーは何なのよっ!?」


いきなり怒鳴られて、ビクっと肩をすくめる。


「何であんな客呼んでんのよっ!?」


そう続けられて、目が点になる。

頭も真っ白で、リンの言ってることが私にはさっぱり分からない。


「ちょっと待って下さい! あのフリーのお客様は私が呼んだ訳じゃ。あの人は今日初めて会っただけで、全然知らない人なんです、私!」


本当だからそう言ったのに、リンは「はぁ?」って首を傾げる。


「榊原リュウ。隣町を取り仕切っているヤクザよ。…オーナーがたった一人愛した女を寝取ったね…」


ドクン…

リンの言葉に息が止まるかと思った。


「アイラちゃんを偵察に来たのよ、あいつら」

「ヤクザが私を偵察に…」


言われている言葉は分かっているものの、うまく頭がついていかなくて…

それより何より…―――――


アキラがたった一人愛した女。


そんな人がいたんだ、やっぱり。

分かっていたような、分かりたくないような…

何ともいえない気持ちが私の胸をギュっと締め付けている。


「リン、やめなさいよ!アイラちゃんに言っても仕方ないわ。この子は本当に何も知らないわ!」


そんな私を助けてくれたのは、サクラさんだった。

この店でも古株だというサクラさんは、今リンが言ったことを全部理解しているに違いない。


「オーナーのお気に入りだか何だか知らねぇーけど、レイラさんにくらべればあんたなんて全然たいしたことねぇーよ」


言葉づかいの荒いスズ。

その迫力も半端ない。


「オーナーはあんたのもんじゃないっつーの!ちょっと優しくされてるからって勘違いしてんじゃないわよっ!?」


また怒鳴り散らされて、バタン!!とドアが閉まった。

自分の呼吸が物凄く早くなっているのを感じる。

頭の中が真っ白になったようで、グルグルと渦を巻いている。

私だけが何も知らなくて…


アキラがたった一人愛した女…




- 66 -

prev / next


TOP