愛してるって言って | ナノ





過去の傷跡が見えた夜2




「ユヅキ」

「はい」

「どんな過去でも、どんなお前でも…俺はお前を愛してる。それだけは絶対に何があっても忘れるなよ?」


肩の手を髪に優しく絡ませて耳元でそう言うテツヤさんは極上に甘い。

このお店のバッグについているヤクザの若頭。

何かあった時に対応してくれる、特別なお得意様。

そして、私の永久指名で枕の相手。


「…告白ですか?」


ドキドキとか、キュンキュンとか…そういう淡い色の感情とは少し違う気がした。

熱っぽい視線をくれるケイジとも、絡みつくような視線を飛ばすアキラとも違う…

心が温まるような、ホッとできる感覚だった。

それを「愛」と呼ぶのなら、私は間違いなくテツヤさんを愛している。

私の問いかけに「ある意味な」そう笑うテツヤさんは、いつも余裕しゃくしゃくで、それはあのアキラよりも、余裕を醸し出していたんだ。

どうやら私の質問に答える気はなさそうなテツヤさんは、いつの間にか話題を逸らしていて、それも私の為なんだと今は思うことにした。

でも、そんな思いもすぐに打ち砕かれるわけで…


結局この日私があのフリー客につくことなく閉店を迎えた。

指名13本重なっていたリンは、あのフリーにつきながらも自分の指名客のテーブルを回って、今日の売り上げトップを堂々飾った。

ロッカールームで着替えていると、バタン!と大きな音を立ててリンが入って来た。

その後ろにはナンバー2のスズが構えていて、二人して明らかに私を睨んでいる。

ゴクリと唾を飲みこんだ瞬間、「アイラちゃんさぁ…」リンの綺麗な声が私を呼んだ。


「はっ、はい…」

「これ以上オーナーを振り回さないでくれる?」

「…へ?」


思わず拍子抜けしてしまったのは、予想外の言葉が届いたから。

なんでここでオーナー?

その意味のまま「オーナーですか?」そう聞いた私に、ギラリと又リンの視線が飛んできた。


「そうよ」


腕を組んで偉そうに私を見ているリンの発する声は、勿論ながら客の前で出すような3オクターブ高い声ではなく、素の低い声で…それだけで迫力満点…。




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