愛してるって言って | ナノ





恋の始まり3




「え?」

「その源氏名、誰の命名かって聞いてんだよ?」


…―――アキラだよ。

ドクンと胸が疼(うず)いた。

こういうのを胸騒ぎというんだろうか?


「俺、この女気に入った」


不意に後ろから抱きしめられるように引き寄せられて、強烈なマリン臭が鼻を突いた。

まるでホストの様なそのいでたち。

金に近い髪を持て余して私のお腹に腕を回して後ろから抱え上げられた。


「リュウ!」


…こいつがボス?!

私が後ろを振り返るのとほぼ同時、ケイジが私のテーブルの側、膝をついた。


「失礼します、アイラさんよろしいでしょうか」

「え?」


急に名前を呼ばれて視線をずらすと、真っ直ぐに私を見つめているケイジ。

その後ろ、いつもスーツなのに今日は着物姿のテツヤさんが立っていた。

更にその後ろ、慌ただしく動いているのは黒服、ナオトくん。

何となく、空気が揺れ動いているのを感じた。


「あの…」


クルリと向きを変えるとマリン男と目が合った。


「おい、こいつに場内指名入れる! 俺を先にしろ」


超強引。

店長のケイジに向かって物凄い偉そうな態度を見せた。


「あのお客様、すぐ戻ってきますので、そしたらゆっくりお話ししませんか?」


私の言葉に、ニヤリと口元に怪しい笑みを浮かべるマリン男。


「だったら変わりにナンバー1連れてこいよ、今すぐにな!」


…横暴!

リンはただでさえ忙しいのに、わざわざフリー客についてる暇なんてさらさらない。

それに、そんな我儘ケイジがきくわけ…―――


「ナオト、すぐにリンさんお連れして」

「はいっ」


…どうして?

そこまでする必要がある客ってこと?この男たち…。

何も分からない、何も知らない私はただ疑問に思うばかりだ。




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