愛してるって言って | ナノ





恋の始まり1




生まれて初めて人に想われた。


ケイジが私に抱く感情を冗談にできるほど恋愛慣れしていない私は、その対応の仕方も知らない。


交わることはないと思っていながらも、その気持ちをむげにはできなくて。


ただ、どうすればいいのか分からない。


今、分かっているのは…――――


アキラとどうこうなるのはダメってこと。


アキラを…―――好きになるのは、許されないんだと。


私がその理由を知るのはそう…―――


――――――――…


「ケイジ、フリーの客私にもつかせて欲しい」

「え?」


翌日出勤したCLUB ISLAND。

今夜も店内はリンの客がオープン前から並んでいた。

加えて、当たり前といえばそうなのかもしれないけれど、ナンバー2を誇るスズのお客も来ていて…

この店でナンバー1を取るのには、リンよりもスズよりも指名客を取らなきゃ話にならない。

現状の私は、太客であるテツヤさん以外、細客数人しか指名がいない。

それもサクラさんから数人回して貰ったようなもんで…。


少しお水の世界に慣れてきた所で、これからいっぱい指名を取らなきゃであって。

けれど、ヘルプの席で名刺を渡すのはこの世界では命取りになるくらいのご法度。

だったらフリーで来たお客さんについて、次回から指名して貰うようにしなければならない。

そう簡単に指名で来ている客の相手が変わることはないから…

フリー様様、どうか私を気に入ってくれないかなぁ!


「お前…」


新入りの私にフリーのお客が回ってくることは今現在あまりなくって…

何かを躊躇(ためら)うようなケイジの態度が少し気になるけど、何とかつけて貰いたい所。

…ズルイと思う、こういうの。

ケイジの気持ち知ってて、それを利用するなんて…


「お願い、ケイジ…」


フロアから離れた場所、スタッフルームと待機席の間ぐらいの死角になった場所で、私はケイジの肩から腕を撫で下ろしながらなぞるように触った。

下から見つめ上げると、ケイジの表情に色がついて、ドキっとしたのがその表情で分かった。


「…たく」


クシャって私の髪を撫でるケイジは、スッと視線を逸らした。

その顔はほんのり赤みがかっていて…


「今日の送り、覚悟しとけよ」


冗談なのか、本気なのか、照れ隠しなのか…読めないケイジの言葉に、「うん!」って答える私はまだ…幸せだった。




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